仮説思考を実践せよ

仮説思考とは何か?

今日、ビジネスの世界において「仮説」という言葉は一般的になったので、みなさんも何度か聞いたことがあるのではないでしょうか。仮説とは「現時点において、最も答えに近いと考えられる仮の答え」のことです。これだけ聞くと、「・・・ん、どういうことだ?」と思われるかもしれませんが、実は私たちは日々仮説を使って生きています。例えば、「今日は天気が悪いから、あの人気店のランチが空いているんじゃないかな?」、「部長は日本酒が好きだから、飲み会は和食にすると喜んでくれるかも!」といった発想も、仮の答えを作って行動しているため、間違いなく仮説思考にあたります。

なぜ仮説思考が必要なのか?

さて、私たちが普段から使っているこの仮説思考ですが、ビジネスパーソンには必須の考え方になっているため、しっかりと学習する必要があります。この仮説思考の対極にあるのは、「まずはとにかく情報を集めて、分析して、そこからやることを決めて・・・」という網羅思考です。はっきり申し上げると、この網羅思考は多くの場合は「悪」でしかありません。そして、先に仮の答えを立てて、その答えを裏付けるために必要な情報のみを収集・分析する仮説思考は、網羅思考よりも圧倒的に早く・正確な答えに辿り着けるという点で「正義」と言うことができます。少し具体的に考えていきましょう。

例えば、上司から「最近顧客数が減っているんだよね・・・。ちょっと分析してよ」と言われた場合、網羅思考で考えてしまうと「分析するには、市場の動向・競合の動向・自社の取組に分けて考える必要があるな。そして市場は、政治・経済・社会・技術に分解して精査したうえで、顧客アンケートの結果からも情報を吸い上げる必要があるし・・・。あと、そもそも市場全体の規模が縮小しているのかも、なんか大事そうな気がするな・・・」というように調べることが無限に登場し、大変な労力になってしまいます。何よりも、みなさんもご経験があるかと思いますが、こうした情報がすべて集まったうえで「で、結局何が言えるんだっけ?」という悲しい結果になることが非常に多いです。ここではっきりとお伝えさせていただきたいのは、「情報は多ければ多いほど良い」という発想は間違っており、情報があればあるほど選択肢が増え、最終的な意思決定が難しくなってしまうということです。

一方、仮説思考の場合は、「最近顧客数が減っているんだよね・・・。ちょっと分析してよ」という上司からの依頼に対して、「これまでの経験を踏まえると、きっと関西地域における競合A社の躍進で、顧客が取られているに違いない」という仮説を立て、それを裏付けるために必要な「競合A社が関西地域でのシェアを大きく伸ばしている」、「その結果として自社の地域別シェアが、関西地域においてのみ大きく減少している」、「この現象は、全社の顧客数の減少と相関している」という事象のみを分析することで、顧客数の減少要因を特定することができます。このように、仮説を設定することにより、収集・分析すべき事項を必要最低限に抑えることができるのです。

どのように仮説を立てればいいのか?

ここまで仮説思考を用いることで、「現時点において、最も答えに近いと考えられる仮の答え」に早く・正確に辿り着くことができることをお伝えしましたが、「いやいや、情報が集まっていないのに、いきなり答えを出すとか無理でしょ・・・」と感じる方も多いと思います。これまで多くの情報を収集・分析してから答えを出す、ということに慣れ親しんだ方にとっては、ひじょ~~~~に違和感のある発想方法であることは理解できます。しかし、その違和感も仮説で考える癖を付けることで徐々になくなっていくので、ここは無理をしてでも仮説思考を徹底しましょう。

「いきなり答えは出ないでしょ」という方は、仮説で考えるという癖がついていないことに加えて、考えているテーマについて前提となるインプット、言い換えると土地勘・手触り感が足りていないからであるケースが多いです。そのような場合は、テーマに合致する書籍をさらっと読んでみる、有識者・同僚・友人・家族にインタビューしてみる、社内にあるデータ・資料を眺めてみる、顧客の声を簡単に拾ってみるなどの方法で、仮説を立てるためのインプットを得ることをおすすめします。ただし、これはあくまでも前提を知るための簡易的なインプットであり、情報収集の沼にははまらないようにしてください。イメージでいえば、1日から2日程度で十分であり、それ以上時間をかけている場合は情報収集が目的にすり替わっている可能性があります。

このようなインプットの工夫だけではなく、「顧客だったらどう考えるかな、競合だったらどう考えるかななど、他者の視点に立って考えてみる」、「求められているものが50であることに対し、もし0だったら・100だったらなどの振り切った考え方をしてみるとどうなるかな」という発想方法の工夫も、仮説を生み出すうえで手助けとなってくれます。

ちなみに、良い仮説の条件についてもお話ししておきましょう。良い仮説の条件としては、「深く掘り下げられており具体的なアクションに繋がる」ことが挙げられます。例を出すと、「自社の顧客満足度が低下した原因は、顧客サービスの品質が悪くなったからだ」という仮説は、顧客サービスが一体何を指すのかが明確ではなく、具体的なアクションにも繋がらないため良い仮説とは言えません。一方、「自社の顧客満足度が低下した原因は、代理店数の急激な増加に伴い、代理店における顧客対応の品質が悪化したためだ」という踏み込んだ仮説を立てることができれば、「代理店向けの教育を強化しよう」、「代理店向けのインセンティブを改善してモチベーションを向上させよう」といった具体的なアクションに繋げることができます。

他にも、「グローバル化を進めるべきである」ではなく「コールセンター機能を海外に移転することで、コスト競争力で優位性を構築すべきである」、「新規事業を始めるべきである」ではなく「既存事業の収益性が低下しているため、収益性の高い新規事業に着手すべきである」、「社員の企画力を向上させるべきである」ではなく「社員の企画力を構成する3要素(問題設定能力・問題解決能力・プレゼン能力)を向上させるべきである」などが良い仮説の例として挙げられます。

どのように仮説を検証すればいいのか?

ここまでは仮説の立て方についてお話してきましたが、せっかく立てた仮説も、検証されなければ「思いつき」の域からは出ず、ビジネスの現場において経営層を動かすほどの力を持ちません。立てた仮説は検証して初めて、価値あるものとして生まれ変わるのです。仮説を検証する方法は主に3つあるので、しっかりとマスターしましょう。

1つ目は「実験」です。これは顧客の行動を通して、仮説の妥当性を検証する行為です。商品を販売している場合ですと、店舗に新商品を並べたり、既存商品の配置や価格を変更することなどが該当します。サービスを販売している場合は、特別価格で新サービスを提供してニーズがあるのかを確認したりすることなどが該当します。さまざまな商品・サービスがある現代において、顧客自身も自らが望むものを知っているわけではありません。そのような中、実験は顧客の行動を通じて、仮説の正しさを極めて正確に教えてくれる魅力的な検証方法になります。

2つ目は「分析」です。これは多くの方にとって馴染みのある取組みであり、数字やデータ、グラフなどを活用して、仮説を裏付けていく方法です。ここで何よりも重要なのは「クイック&ダーティー」という考え方であり、分析はとにかく早く・必要な分だけ実施するという概念です。分析は行おうと思えば際限なく行うことができます。分析結果として出てくる数値も、0.1%単位まで細かく分析することが可能です。しかし、ビジネスの現場で必要なのは、経営における意思決定に必要な最低限の分析でしかありません。顧客の満足度が80%だろうが、75%だろうが、74.9%だろうが、経営の意思決定に大きな影響はありません。「どこまでの分析が必要なのか?」を常に意識し、汚くてもいいので最低限の分析を、できる限り早く行うことを心掛けてください。

3つ目は「インタビューおよびディスカッション」であり、有識者などに直接仮説をぶつけることを指します。ここでのポイントは、インタビューやディスカッションを通して必ず仮説を進化させることです。仮説が否定された場合でも「なぜ違うと思うのか?」を深掘りし、仮説が肯定された場合でも「さらに良くするためにはどうすべきか?」を深掘りすることで、仮説をより洗練されたものに仕上げることができます。

重要なのは仮説を立てることだけではなく、仮説をしっかりと検証すること。仮説の立案・検証サイクルをできる限り早く回していくことで、それだけ答えの質が格段に向上していきます。

まとめ

今回は「仮説思考」についてお話をさせていただきましたが、仮説思考がどれほどビジネスにおいて重要かご理解いただけたでしょうか。お伝えした通り、仮説思考は慣れていないと中々扱いにくいと思ってしまいますが、訓練を経て身に付けていくことで強力な武器になります。ぜひ、ビジネスの中で、そして日常生活の中で絶えず特訓を続けてください。最後に、今回学んだことを振り返りましょう。

  • 仮説とは「現時点において、最も答えに近いと考えられる仮の答え」です。
  • あらゆる情報を収集・分析してから答えを出す網羅思考とは真逆の考え方であり、網羅思考よりもより良い答えを早く導き出すことができる、ビジネスパーソンに必須のスキルです。
  • 仮説を発想するためには、検討テーマに対する前提知識を極めて簡易的に身に付けたうえで、他人の視点になってみる、振り切った考え方をしてみるということも有効です。
  • 仮説を構築する際の条件として、仮説を深く掘り下げて具体的なアクションに繋げることを徹底する必要があります。
  • 仮説は検証してこそ価値があり、具体的には実験、分析、インタビューおよびディスカッションの3種類から最適な方法を採用する必要があります。

「情報は集まれば集まるほど良い」は遠い昔の幻想です。答えから逆算して必要な情報を収集・分析する仮説思考を身に付け、価値ある仕事に取組みましょう!

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