本記事の目的
今回はフリーランス向けに、ただでさえボリュームが大きくて難しいマーケティングについて、パパっと簡単に理解することを目的としています。そのため、マーケティングの細かい内容は説明せず、全体像や流れを中心にご説明させていただきます。細かいお話については、別の記事でもまとめていますので、ぜひチェックしてみてください!
そもそもマーケティングとは何か?
早速ですが、本題に入っていきましょう。まずフリーランスの皆さんに問いかけたいのは、「マーケティングって何ですか?」ということです。誰しも言葉だけは聞いたことがあると思いますが、正確に理解されている方は少ないのではないでしょうか?
全米マーケティング学会によれば、マーケティングとは「個人と組織の目標を満足させる交換を創造するために、アイデア、財、サービスの概念形成、価格、プロモーション、流通を計画・実行するプロセス」ということらしいです。正直、これだけ聞いても「なんじゃそりゃ」って感じですよね。これをかみ砕いて説明すると、要するに「顧客について理解し、商品・サービスが自然に売れるようにすること」という意味です。
実は昔はこのマーケティングという考え方がなくとも、商品やサービスは勝手に売れることが多かったのです。それは、市場自体が大きく成長していたため、必要最低限の商品・サービスをそれなりの価格で販売するだけで、大きな需要が獲得できていたからです。
しかし現在、特に日本において成長は失われ、限定された市場のなかできちんとした価値を提供できなければ、顧客に選んでもらうことは難しくなってしまいました。この流れは、企業を中心とした事業活動から、顧客を中心とした事業活動へのシフトを強いられている、それゆえにマーケティングが必要になってきたと言い換えることができるかもしれません。
マーケティング=顧客中心とは?
マーケティングが顧客中心主義を根本に置いていることを示す有名な事例をご紹介しましょう。例えば、あなたがホームセンターの店員だとして、「小さな穴をあけるドリルはありませんか?」と言ってくるお客さんがいた場合、この人は何を欲しがっていると感じるでしょうか? 大半の人は、当たり前ですが「この人はドリルが欲しいんだな~」と思い、「どんな性能のドリルがいいですか?」などと聞き返すでしょう。
しかし、これはあくまで売り手の目線にしか立てていません。顧客中心主義を掲げるマーケティングにおいては、「この人はドリルそのものが欲しいのではなく、小さな穴が欲しいんだな」と考えなければいけないのです。ドリルは小さな穴をあけるという目的を達成するための手段でしかないため、短絡的にとにかくドリルの紹介をしようと考えてしまうと、お客さんの本当のニーズを満たせない可能性が高いです。
そこでよくよくヒアリングすると、小さな穴をあけたいのは家具を組み立てるためであることが分かりました。このような場合、ドリルではなく家具組み立てサービスを紹介したほうが、お客さんの満足を得られていたかもしれないのです。そしてこの満足は、自社ホームセンターの継続利用や客単価上昇、口コミによる宣伝効果などに繋がっていき、結果として企業を成長に導いてくれます。
マーケティングの全体像
ここまででマーケティングの重要性が分かったと思います。さて、この大事な大事なマーケティングですが、具体的にどのように考えていけばよいのでしょうか? 考えるためのステップを見ていきましょう。
まず出発点は「①環境分析」です。顧客・市場(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)、つまりいわゆる3Cの観点から、事業環境について全貌を理解することで、自社の事業機会を見極めます。次が「②セグメンテーション・ターゲティング」です。これは、特定の市場を細分化して、そのなかのいずれのセグメントで戦うべきかを決める作業です。
次は「③ポジショニング」です。セグメンテーション/ターゲティングで定めた狙うべきセグメントにおいて、自社の優位性をどのように発揮して戦っていくかというコンセプトを定めます。
そして最後が「④マーケティングミックス」です。これは、4Pと言われるProduct(商品)・Price(価格)・Place(流通経路)・Promotion(宣伝方法)の頭文字を取ったものであり、ポジショニングで定めたコンセプトを具体的なレベルにまで落とし込みます。
この一連のステップを通して検討していくことで、マーケティングの目的である「顧客について理解し、商品・サービスが自然に売れるようにすること」を達成することができるのです。それでは、各ステップについて見ていきましょう。
環境分析
環境分析は、顧客・市場(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)、つまりいわゆる3Cの観点に基づいて、事業環境について全貌を理解することで、自社の事業機会を見極めるために使用します。
顧客・市場(Customer)では、顧客が抱えているニーズや不満などを把握するというミクロな視点はもちろん、市場規模の大小や成長性といったマクロの視点で状況を把握する必要があります。
競合(Competitor)では、自社が他社を出し抜いて競争優位性を確立するために、競合について分析しておく必要があります。具体的には、他社の儲けの仕組みや勝ち筋、市場におけるポジションなどを調査していくことになるでしょう。
自社(Company)では、自社の強み・弱みを棚卸しすることで、どのような強みを持って競合に打ち勝っていくか、弱みをどのように克服していくかを検討していきます。
これら3つの観点を網羅することで、次のセグメンテーション・ターゲティングで狙うべきセグメントを見極めるための示唆を得ることができます。注意していただきたいのは、「とにかく何でも調べてみよう!」という発想で調査するのではなく、仮説を持って調査するという点です。例えば、セグメンテーション・ターゲティングを見据えながら、「自社は〇〇市場に参入したほうがいいかも!」という仮説を持っておいて、それに関連する情報のみを収集・分析するということです。そうでなければ、情報の洪水に巻き込まれて、調査してみたけど結局何が言えるんだっけ?の状態になってしまいます。
セグメンテーション/ターゲティング
さて、次はセグメンテーション/ターゲティングについて考えていきましょう。
まずセグメンテーションとは、顧客・市場を共通する特徴で分類するということです。例えば、ファッション市場は年齢と性別といった顧客の属性で分類することもできますし、商品の価格や提供方法などでも分類することができます。そして、ターゲティングとは、この分類したセグメントにおいて、自社がどこを狙うべきかを決めることです。
例えば、20代の女性セグメントを狙うべき、あるいは高価格帯のオンラインチャネルに勝機を見出すといったことが挙げられますね。
ここで重要なのは、適当に顧客・市場を切り分けるということではなく、将来性が期待され、自社の強みが発揮しやすいようなセグメントを見つけるということです。なんとな~く思いついたセグメントや、競合が誰しも思いついているセグメントを狙ったとしても、競争に勝つことはできません。環境分析の結果を踏まえて、自社だからこそ勝てるセグメント、規模が大きく成長が期待されるセグメントを見つけるようにしましょう。
ポジショニング
狙うべきセグメントが決まったら、次はそのセグメントの中でどのように競合に打ち勝っていくかを決めるポジショニングを検討しましょう。ポジショニングの検討においては、ターゲットとなる市場セグメントをさらに2軸で分類して自社・競合をマッピングし、競合と差別化できるようなポジションを模索する方法がしばしば取られます。
先ほどの例で言えば、ファッション市場における20代の女性セグメントを深掘りしていくと、毎日着る服を選ぶのが面倒か楽しいか、服を買うための金銭的・スペース的な余裕があるかないかといった分解ができ、
結果として「毎日服を選ぶのが面倒と感じており、かつ金銭的・スペース的余裕がない20代女性に対して、サブスクリプション型の衣類のレンタル・レコメンドサービスを提供してはどうか。これならば競合との競争を避けつつ、大きな市場を手にすることができるのではないか」といった発想ができます。
ここでも重要なのは、しっかりと自社の強みが活きる、あるいは自社の弱みをカバーできるような差別化ポイントを見極め、筋のよいポジションを見つけることです。さまざまな軸を試してみて、最もふさわしい軸を選ぶようにしましょう。
マーケティングミックス
ここまでで、どの市場セグメントを攻めるべきか、そしてそのセグメントにおいてどのような差別化ポイントを訴求して戦っていくのかというコンセプトが決まりました。最後は、そのコンセプトをProduct(商品)・Price(価格)・Place(流通経路)・Promotion(宣伝方法)という4Pの観点で具体化していきましょう。
まずProduct(商品)について、ターゲット顧客に提供する商品・サービスの内容を徹底的に磨き上げます。商品・サービスの性能やデザインをしっかりと見極めることはもちろん、付帯サービスなどについても検討を行い、トータルで顧客に響く商品・サービスに落とし込む必要があります。
次のPrice(価格)では、商品・サービスの価格を決定します。価格の決め方は、原価から逆算して決める方法、顧客が受け取る価値から逆算して決める方法、競合の設定している価格から逆算して決める方法の3種類があります。これらを組み合わせて、最適な価格を見極めるようにしましょう。
次にPlace(流通経路)について、ここでは直販や小売店、オンラインや対面といったさまざまな選択肢から、顧客への効果的なアクセス方法を決定します。確実にターゲット顧客にアプローチでき、顧客の購買を効率的に誘導することができ、コスト効率よく購買を推し進めることができるチャネルを選択するようにしましょう。
最後にPromotion(宣伝方法)については、自分の商品・サービスを効果的に顧客に伝える方法を検討しましょう。例えば、テレビ広告などは大勢に対してメッセージを伝えることができますが、そのメッセージ深さは浅く、かつ費用も非常に高額です。一方、直接接客する場合は、人数はそれほどさばくことはできませんが、より深いメッセージを伝えることができます。状況に応じて最適な方法を選択するようにしましょう。
モスバーガーの事例で考える
以上で、マーケティングの概要をすべて説明することができました。それでは最後に、これまでの理論的なお話しに実感を持たせるため、身近な例として、皆さん食べたことがある「モスバーガー」のマーケティング戦略を考えてみましょう!
まずは環境分析です。顧客・市場の観点では、1971年にマクドナルドが1号店をオープンした後、モスバーガーは1年後の1972年に1号店をオープンしました。それまでとは異なる食文化ではあったものの、今では道を歩いていればどこでも見つけられる一大産業にまで成長しました。
競合(Competitor)の観点では、言わずもがな業界トップはマクドナルドであり、そこそこおいしい安価な商品を多くの顧客に届けています。そして自社(Company)の観点では、現状マクドナルドほどの店舗数やそれを実現するための体力、マクドナルドのように日本上陸以前から世界で積み上げてきた知識・経験もありませんでした。
このような環境を前提としたうえで、セグメンテーションとターゲティングを考えていきましょう。まずハンバーガー市場を低価格・中価格・高価格という価格帯、そしてハンバーガーの品質を低品質・中品質・高品質で分けると、9つの市場セグメントが浮かび上がってきます。
このうち、マクドナルドは大衆向けの大量消費商品として低価格・低品質セグメントに該当するでしょう。一方、マクドナルドと直接対決しても敵わないモスバーガーが選んだのは中価格・中品質帯です。この市場セグメントであれば、マクドナルドとは直接的に競合せず、市場のシェアも一定獲得することができます。
そのうえで、ポジショニングです。モスバーガーは同じ市場セグメントに属するマクドナルド以外の競合との差別化を実現するため、これまでハンバーガー産業が狙ってきた男性顧客ではなく女性顧客を、そして西洋風の味付けではなく醬油や味噌などの日本風の味付けを目指していくことにしました。ターゲット市場において、非常にユニークな地位を見極めたと言っていいでしょう。
さて、ポジショニングまで固まってしまえば、あとは4Pに基づいて事業内容を見ていくだけです。まず、Product(商品)については、徹底的によい食材を追求し、調理も丁寧に行うことでとことん味を追求しています。
Price(価格)については、商品の品質を担保しつつ、利益を確保するために比較的高めになっています。Place(流通経路)については、広々として落ち着いた店舗を有しており、かつ賃料の高い駅前などを立地条件から外すことで、コストを押さえつつ味によって顧客が遠くから足を運んでくれることを見越しています。最後のPromotion(広告宣伝)については、より多くの顧客に届けるためにテレビCMなどを中心に置きつつ、状況に応じて他の媒体も使い分けています。
いかがでしょうか? ハンバーガーを例にとっても、こうしたマーケティング戦略によってかたち作られており、それゆえに私たちが認知し普及しているということが分かったと思います。
まとめ
今回は、マーケティングの全体像を理解するという目的のため、細かい説明は抜きに、要所のみをピックアップしてご説明させていただきました。最後に、もう一度全体像について振り返っていきましょう!
- マーケティングとは、「顧客について理解し、商品・サービスが自然に売れるようにすること」を意味します。
- 出発点は「環境分析」であり、顧客や市場、競合、自社といった観点から、事業環境について全貌を理解することで事業機会を見極めます。
- 次は「セグメンテーション・ターゲティング」であり、特定の市場を細分化して、そのなかのいずれのセグメントで戦うべきかを決める作業を指します。
- 次は「ポジショニング」であり、セグメンテーション/ターゲティングで定めた狙うべきセグメントにおいて、自分の優位性をどのように発揮して戦っていくかというコンセプトを定めます。
- 最後が「マーケティングミックス」であり、4Pと言われるProduct(商品)・Price(価格)・Place(流通経路)・Promotion(宣伝方法)の頭文字を取ったもので、ポジショニングで定めたコンセプトを具体的なレベルにまで落とし込みます。